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東京高等裁判所 昭和59年(く)163号 決定 1984年7月19日

少年 Y・I(昭四二・五・二八生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年が提出した抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、本件の共犯者はいずれも仕事をせず、繰り返し無免許で車を乗り廻しており、うちリーダー格の者は鑑別所に入れられたのが少年と同じく二回目で、その非行内容をくらべても、少年は他の二名が缶ジュースを盗みに行つたとき、たまたま車の外に出たというだけで見張りとされてしまい警察でそのような調書を作つたのであつて、共犯者の方が重い情状であるにも拘らず、共犯者はいずれも少年院送致となつていないのに、少年のみを少年院に送致するのは納得できないところであり、しかも少年が今回の非行及びこれまで親兄弟らに迷惑をかけたことを反省し、悪い友達との交際を断ち、引き取つてくれるという母親のもとで真面目に働いて被害を弁償する旨更生の決意を固めているのであるから、病気である故をもつて少年のみを少年院に送致することとした原決定の処分は重過ぎる、というのである。

そこで一件記録に基づいて検討すると、本件は、原決定が非行事実として摘示する如く、少年が、Aと共謀のうえ、昭和五九年四月七日頃埼玉県坂戸市内の中古車展示場において、乗用車内からカーステレオコンポを窃取し、A及びBと共謀のうえ、同年五月九日頃同県入間郡○○町の酒店倉庫において炭酸飲料水二四本入一箱を窃取し、次いで付近の駐車場において普通貨物自動車のガソリンタンクからガソリン約一〇リットルを窃取した、というのであつて、右非行のうち炭酸飲料水の窃取については、共犯者らと共に乗用車を乗り廻しているうち、のどが乾いたことからジュースを盗もうという話になり、A及びBが倉庫に盗みに入つている間、少年が外で見張つていたというもので、右の事実は少年の原審審判廷における供述からも肯認することができ、少年が共同して右非行に及んだことは明らかであり、また少年は窃取したカーステレオコンポのうちスピーカー二個を自己の車に取りつけているものでもあつて、非行の情状において少年が他の共犯者に比し軽いとはいえない。しかも、少年は、昭和五八年三月に中学を卒業して就職し、かつ定時制高校に通うようになつたものの、真面目に働く意欲に欠け、本件共犯者らと付き合うようになつて、いずれも車に対する欲望が強いところから、無免許運転、バイクの窃盗などの非行に走り、同年九月一六日浦和家庭裁判所川越支部において保護観察の処分を受けたのであるが、その後も真面目に働こうとせず、保護司の指導にも従わず、従前の交友関係を断つことなく無免許で車を乗り廻しているうちに本件各非行に至つたのであつて、少年が他人の中で目立ちたいとの気持から軽率に行動し易く、また虚言を用いて当面を糊塗し自己保身をはかる傾向のみられることをもあわせ考えれば、少年の非行性向には軽視し得ないものがあるといわざるを得ない。このような状況にありながら、原決定が処遇の理由において説示する如く、少年の両親には少年に対する保護を期待し難いところである。以上の如き本件非行の態様、少年の生活態度及び性格、これまでの補導の状況に照らせば、少年が現況においてそれなりの反省の情を述べていること、また記録上窺うことのできる共犯者に関する諸事情を考慮しても、少年の健全な保護育成をはかるためには収容保護の方途をとるのはやむを得ないものというべく、少年が梅毒の治療を必要としていることをもあわせ考えると、少年を医療少年院に送致することとした原決定の処分をもつて著しく不当であるということはできない。

よつて本件抗告は理由がないので、少年法三三条一項後段、少年審判規則五〇条により主文のとおり決定をする。

(裁判長裁判官 山本茂 裁判官 佐野昭一 渡邉一弘)

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